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「聞き書き」の効果

聞き書きの効果

語り手である対象者自身にとっての効果

聞き書きでは、語り手が今まで歩んできた人生が浮かび上がるように、語り手が話した言葉を残しながら文章にします。対象者は自分の物語を手に取って物理的にも視覚的にも確認する。そのため、聞き書きは傾聴や共感を具現化できる、一歩進んだ看護といえます。
聞き書きは、語り手である患者にとっては、医療者との信頼関係の構築、レジリエンスやリフレイミングの向上につながる効果があると思われます。また、聞き手である看護師にとっても、患者との関係性において生き生きとした流れや動きを感じられる関わりであり、語り手に変わって自分史を作成することにより、話を聞くだけの関わりよりもさらに語り手の気持ちや生き方が体感できる関わりでもあります(岡ら,2017)。                      聞き書きカードとある患者さんへの聞き書きの効果

 

書き手(学生や医療従事者)にとっての効果

聞き書きには以下の4つの効果がみられます。

1)「書く」ことは「聞く」ことよりも記憶に残る

エドガー・デールの学習の円錐(Dale,1664)を援用したイメージを右図に示します。これは学習方法の違いによって,学習内容が2週間後もどの程度記憶に残っているかを表したものです。この数字は検証されているわけではないため絶対的なものでは無いが,海外の研究者間でも引用されています。

学習方法の相違による学習2週間後の記憶
文献(Dale,1664)を参考に岡改変

確かに,伝言も聞くだけよりも,書いた方が記憶に残ると言うことを,誰しも経験しているのではないでしょうか。他者の話を書くことは,良く行われている傾聴などよりも,対象者の話を記憶に残す効果があると言えます。つまり,「書く」ことは対象者の人生の内的世界を一時的に理解するだけでなく,記憶にとどめることができるのです(岡,。

2)「書く」ことで対象者との距離感が縮まる

対象者の語りは日々の生活や人生を展望したことに関する場合もあり,聞き書きではそれを文字に書き起こします。今までは,病院のベッドで顔を合わせるだけで,パジャマ姿しか見たことのない患者様でも,好きな服装を聞くことで,晴れの日の語り手の姿を想像することができます。また,語り手の得意料理の作り方を書き記せば,自分もその料理ができるようになることもあるでしょう。
このように対象者の生活を知ることで,語り手の日々の生活に自ずと接近すると共に,対象者が経験したことを自分のことのように,身近に感じることができるのです。そのため,対象者の生活や経験を書くことで,対象者との距離感が縮まるようになるのです。

3)「書く」ことで対象者への洞察が深まる

聞き書きにおいて,対象者の話を書くときには,レコーダーに録音した音声を,逐語録に起こし,その言葉を冊子にする。その時,必然的に対象者の言葉を吟味することになります。
例えば,対象者が「いやぁー,病気になったときの気持ちねー,いやぁー,そうだねぇ,いやぁー,まあ何というか・・」と語ったとする。ここの発言では,「いやぁー」という言葉が,3回出てくる。この「いやぁー」という言葉は,フィーラーと呼ばれる非言語的発声です。逐語録にする際には,一旦これをすべて書き起こすが,冊子にするときにこのフィーラーを全て記載するかどうかは,吟味のしどころです。すべてのフィーラーを記載すれば,対象者が話した過程などが理解できる反面,文章のつながりが途切れてしまうので,読みにくくなることもあります。また,すべてのフィーラーに意味があるとは限らず,単なる口癖であったり,他のことに気がとられてたまたま「いやぁー」と言ったりしたのかもしれません。
それらを判断するために,対象者の話の内容(話の前後の意味,言葉を選んだ経緯など),語り手の動作や表情(感情の変化,口調や身振り手振りなど),さらには対象者とは直接関係なく起こった突発的な出来事(語っている途中の電話や訪問者など)など,環境的要因を確認しながらも,対象者自身に関する洞察を深めていくのです。
そのため,3つの「いやぁー」について考えることで,さらにこのフィーラーに限らず,対象者の話を書くことで,それぞれどのような意味があるのか,対象者の言葉から気持ちや感情への洞察が深まるのです。

4)「書く」ことは対象者への同化を体感する

じっくりEASEにおける書き手は,対象者の話を書くことで,対象者の生き方や価値観を理解し,それを表現する対象者の言葉を理解し,その言葉をつないでいくと同時に対象者の息づかいも理解するようになります。このことにより,書き手は対象者に対して理解が深まるだけでなく,自分の中に取り込み同化を感じるようになります。
この同化は,共感でも同情でもないものであり,「憑依」という言葉を使う人もいるくらいです。実際,岡も聞き書きを行い書き手になったときに,対象者との同化を「体感」することがありました。その体感とは,自分があたかも,その語り手になったような感じであり,逐語録から語り手の自分史を作成している際に,タイピングをしている自分があたかも語り手になったような感覚を覚えたのです。
このように語り手の話を書くということは,共感を超えた「同化を体で体験する」ことがあります。

他の患者にとっての効果

「聞き書き」に書かれたことを,病気になる手前の未病の人や,同じ病気を抱えている人が読むことで,ピアラーニング(peer learning)の効果があると思われます。「聞き書き」は冊子やカードとして語った内容が残ります。そのため,聞き書き冊子を元に,他の人にも広く伝えることが可能となります。先輩患者さんとして,今後の治療や検査、気を付けた方が良い症状,必要なセルフケアなどを経験から伝えることで,他の患者さんにとって自分の病気の進行への予測や,悪化予防のために必要なことなどがわかります。そのため,聞き書きは,仲間同士で学ぶというピアラーニングの効果があると思われます。

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