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「聞き書き」と「じっくりEASE(イーズ)プログラム」

「聞き書き」と「じっくりEASE(イーズ)プログラム」

「じっくりEASE(イーズ)プログラム」への「聞き書き」の導入

聞き書きのルーツは、イエス・キリストの言動を、弟子達が記述した新約聖書とも言われています。岡研究室では,慢性疾患患者様に聞き書きを行ってきましたが、慢性疾患患者様を対象にしたときにこの聞き書きを今後の療養生活にどのように生かすかという目的が入っていないと、多忙な臨床の中ではなかなか取り組むことがむつかしいことを実感し始めました。そこで、岡が提唱しているEASE(イーズ)プログラム®に聞き書きを導入することにいたしました。EASE(イーズ)プログラム®の目的は表1に示す通りです(岡,2023)。

表1

「EASE(イーズ)プログラム」と「聞き書き」(別名,じっくりEASE)の目的(文献  岡美智代(2023).セルフケアと統合医療-セルフケアの意味から考える-.日本統合医療学会誌,16(1),1-6)

EASE(イーズ)プログラム®

その人らしい生活を送るため、疾病の予防、治療や健康に関する、セルフマネジメントの考え方と行動を、修正、維持することをねらいとしている。

「聞き書き」(別名,じっくりEASE)
  1. 対象者自身のセルフケアやレジリエンス向上のため

    対象者自身のセルフケアやレジリエンス向上のため
    対象者が自身の現在や過去を見つめることによって、「自分はこれで良いのだ」という穏やかな自信を持ち、周囲の人や環境に対しても穏やかな信頼がもてるように支援することと、医療者との信頼関係を構築すること。

  2. 学生や医療従事者が対象者を理解するため

    学生や医療従事者が対象者を理解するため
    看護学生や看護師が、対象者が歩んできた人生や生活について語ってもらい,対象者のことを理解し、今後の医療支援に生かすこと。

  3. 他患に対してのメッセージ

    他患に対してのメッセージ
    未病の人や,同一疾患を抱えている人に対して,今後の治療や検査、気を付けた方が良い症状など、先輩患者として自分の経験から伝えたいことを紹介すること。

EASEプログラムでは患者と医療者が協働で行動目標を設定するのですが、自分を大切にすることに一生懸命になれずに,行動目標の設定がむつかしい患者もいらっしゃいます。そこで、EASEプログラムの行動目標設定の前に、聞き書きを導入して、まずは今までの患者の生き方や考えを語っていただき、自分を稚拙にする気持ちを持っていただきレジリエンスの回復を図るようにする案を考えました。また、EASEプログラムに聞き書きを導入したものを、ゆっくり・じっくり患者と話をしながら目標設定するという意味を込めて,「じっくりEASE(イーズ)プログラム」と名付けることにした。なお、従来の「聞き書き」と,慢性疾患患者を対象にした「じっくりEASE(イーズ)プログラム」における「聞き書き」の相違を表2(岡ら,2017)に示します。ここでは,便宜上,「聞き書き」という表記で統一します。

表2

従来の「聞き書き」と「じっくりEASE(イーズ)プログラム」における「聞き書き」の違い
(文献:岡美智代,齊藤詩織,井手段幸樹(2017).「じっくりEASE(イーズ)プログラム」における「聞き書き」について―慢性疾患患者の語りを冊子やカードにする看護支援―.日本慢性看護学会誌,11(1):34-38)

聞き書き じっくりEASEにおける聞き書き
目的 対象者の物語を聞き、それを冊子にして後世に残す。 信頼関係の構築、レジリエンス、リフレイミングが中心。
重視する点 楽しみや歴史的価値の要素を重視。聞き手は「無知の姿勢」を前提とする。
  • 患者のレジリエンスの向上
  • 患者教育の要素も含む
  • 患者自身への自分の人生への振り返り
  • 他の患者への闘病記的要素
  • 他の医療者への患者の内的心理面の紹介
  • 聞き手は「専門知の姿勢」をとることが多い。次のことを中心に聞く。情報収集、治療関係の醸成、患者の全体像(物語)を知る、療養に対する取り組み。
誤情報の扱い あまり修正しない 医療的内容で誤解を生じさせる語りついては注釈をつける。(例:「インシュリンなんか打たなくって、何ともないんだよ。*」このような発言は記述はするが、「*」をつけて医療的注釈をつける。
完成品 冊子 冊子またはカード
その他 文芸作品に近い。 ライフヒストリーやnarrative based medicineに近いが、冊子やカードを渡すところが異なる。

聞き書きとは

語り手にご自分のことを語っていただき、聞き手がそれを文字に起こして語り手の言葉を使って冊子やカードにするという、いわば「自分史」を聞き手が作成する活動です(岡ら,2018)。

「聞き書き」を行い,冊子にした一例

「EASE(イーズ)プログラム」と「聞き書き」(別名,じっくりEASE)の目的

聞き書きの目的は,表1に示す通り3つの目的があります(岡,2023)。

  1. 対象者自身のレジリエンスを高めるため
  2. 学生や医療従事者が対象者を理解するため
  3. 他患に対してのメッセージ

特に,目的1では,対象者が自分に自信を持ち、周囲の人に対して信頼がもてるように支援することを目指しており,セルフケア支援に位置付けることができると考えています。たとえば,心に壁がある人は、人との関わりが苦手であると同時に,自分に対しても否定的なこともあり,心の壁は厚く高いものになっていることもあります。このような人は,残念ながら自分を大切にすることに積極的ではなく,時に暴飲暴食を繰り返すことがあります。このような人に聞き書きは,一定の支援ができると考えられており,自分の語りが記載された「聞き書き本」を読むことで,自分自身を客観的にとらえることができ,自己否定感を緩和させることができるといえます。

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